17号 2001年5月 唾液

 

 「唾液」の「唾」は「つば」と読みますが、「口」の横に「垂(たれる)」と書きます。「唾液」とは、口から垂れる液、つまり「よだれ」の意味でもあります。

唾液は唾液腺という器官で作られ、いつも口のなかに少量流れ出ています。それが、おいしそうな食べ物を見たり、食べ物を食べるためにあごを動かして噛むと、噛んだ回数に応じてたくさん分泌されます。 

 

 

食べ物の消化を助けます

 唾液の役割は、まずで細かく砕いた食べ物と混ざることによって、飲み込みやすくすることがあります。唾液で適度に水分が増すと、食べ物がのどで引っかからなくなります。同時に唾液は、消化酵素を含んでいるので、食べ物と混ざると消化を促進し、胃や腸での消化や吸収をよりよくします。

食事中にお茶やジュースなどの飲み物で水分補給し、食べ物を流し込むような食べ方を続けると、唾液が十分に分泌されなくなったドライマウスになってしまいます。よく噛んで、たくさん唾液を出すことが大切です。

 

 

歯を清掃し丈夫にします

唾液には、口のなかの汚れを洗い流し、歯の表面をきれいにする作用や、むし歯の原因菌:ミュータンス菌によって糖分から分解されてできた酸を薄める作用もあります。唾液の量が増えれば歯は汚れにくくなり、歯の清掃が行われ、むし歯や歯周病の予防につながります。ただし、絶えず口のなかが汚れていては、この作用も追いつけません。だらだら食いをしないことが原則です。特に、眠っている間は、唾液の分泌量がとても少なくなります。寝る前には、ブラッシングをしっかりしておきましょう。

流れ出る唾液は、歯の表面を清掃するだけでなく、歯を強化する働きもあります。唾液に含まれるミネラルが、歯の中にしみ込んで歯を丈夫にしていくので、生えたばかりの歯を持つこどもたちは、ミネラルをたっぷり摂り、唾液を十分に分泌させることが必要です。

 

 

よく噛むことが何より大切

 そのほかにも唾液には、発育促進や老化防止に効果のあるホルモンや発癌性物質を解毒したり、低下させる働きがある酵素が含まれています。ふだんは唾液についてはとくに意識はしていませんが、からだにとって唾液は重要なものなのです。

このように賢い唾液をたくさん出すには、よく噛むことです。噛めば、噛むほど、唾液の量が増えます。また、唾液はストレスに敏感なので、楽しい雰囲気でゆっくり食事をすることも忘れてはなりません。

食べ物をよく噛むと脳細胞が刺激され、脳の働きも活発になり、精神も安定します。歯の健康のためだけでなく、よく噛んで、たっぷり唾液を出すことは、とても大切です。

 

 

唾液で癌を発見

 2010年6月28日、慶応義塾大学先端生命科学研究所が、米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)と共同で、唾液から癌を発見する技術の開発に成功したと発表しました。

 血液を検査して病気を調べることはよくあります。糖尿病を見つけるための血糖値測定をはじめ、健康診断でも使われ、一部の癌もわかります。たとえば、前立腺特異抗原(PSA)と呼ばれるたんぱく質の値を調べると、前立腺癌の発見につながります。しかし採血の針を刺すので痛いですし、感染症の心配もあります。

 唾液は99%が水分で、血液がもとになっているので、血液中にある酵素やたんぱく質などほとんどすべての物質が、唾液中にも分泌されています。全身状態の変化が唾液の成分にも影響を及ぼしているのです。唾液の検査は、採血の痛みや感染症の心配もなく、自分で何度も簡単に採れるので、患者の負担が少ない検査方法といえます。

 UCLAが、膵臓癌・乳癌・口腔癌患者や健常者ら215人の唾液を集め、慶応大がそれぞれの癌に特徴的な代謝物質を探しました。検出された約500種類の糖やアミノ酸などのうち、膵臓癌患者はグルタミン酸の濃度が高いなど、健常者に比べて濃度が高かったり低かったりした54物質を特定しました。これらの物質の特徴を組み合わせた解析で、癌患者を対象に、癌が判別できる精度を調べました。この結果、膵臓癌の99%、乳癌の95%、口腔癌の80%を見分けられました。しかも、年齢や性別、人種の差は、あまりありませんでした。

 膵臓癌は、早期段階では特徴的な症状がないうえ、他の臓器に囲まれているため発見されにくく、進行して見つかる場合が多いのが現状です。ただし実用化のためには、癌と診断されていない人を対象にした試験や、唾液の状態による影響、早期癌の患者にも有効なのかの確認など、さらにデータの蓄積と検証が必要になります。

 

 

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