19号 2001年7月 タバコ

 

タバコ煙の成分

 タバコの煙は、吸煙時にタバコ自体やフィルターを通過して口のなかに入る「主流煙」と、吸煙と吸煙の間にくすぶっているときに発生する「副流煙」に分けられます。いずれも「粒子相(タール)」と「ガス相」に分けられ、多くの発癌物質・発癌促進物質を含む、4,000を超える化学物質の混合物です。副流煙は酸素が十分に供給されない燃焼、すなわち「くすぶり」によって生じるために、各種有害物質の発生は主流煙より副流煙の方が多く、目や鼻の粘膜を刺激します。

 タバコ煙の成分のうち急性的な薬理作用をもたらす成分は、粒子相に含まれているニコチンとガス層の一酸化炭素です。ニコチンは中枢神経系の興奮が生じ、心臓・血管系への急性影響をもたらします。体内に吸収されたニコチンは分解されてコチニンという最強の発癌物質になります。一酸化炭素は赤血球のヘモグロビンと強力に結びついて一酸化炭素ヘモグロビンとなり、血液中の酸素運搬を妨げます。

 

 

全身との関係

:喫煙は単独で、癌の原因の約30%を占めます。呼吸器系(喉頭癌、肺癌、咽頭癌)、消化器系(口腔癌、食道癌、胃癌、肝臓癌、膵臓癌)、泌尿器系(腎臓癌、尿管癌、膀胱癌)、子宮癌、乳癌など、喫煙により、全身の多くの癌にかかる危険性が高まります。

喉頭癌や肺癌など、タバコが直接接触する部位の癌の危険性はかなり高い(喉頭癌で32.00倍)のですが、膀胱癌、膵臓癌、子宮癌など、タバコが直接接触しないと思われる部位の癌の危険性も高くなるのです。

特に、1日の喫煙量が多いほど、喫煙年数が長いほど、喫煙開始年齢が若いほど、煙を深く吸い込むほどその危険性は高まります。(喫煙開始年齢が若いと危険性が高まるのは、喫煙期間が長くなって生涯喫煙量が増えるためだけではないそうです。)

禁煙すると軽度の体重増加が見られることが多いのですが、その影響は禁煙による健康の改善を相殺するほど大きいものではありません。

 

循環器系疾患:喫煙により、全身の動脈硬化が起こり、心筋梗塞、狭心症、大動脈瘤、脳血栓、クモ膜下出血などの危険性が高まります。 さらに、高血圧症や高脂血症が加わると、危険性は相乗的に高まります。

呼吸器系疾患:喫煙により、慢性気管支炎、肺気腫、自然気胸などの危険性が高まります。

胎児・乳幼児への影響妊婦の喫煙は胎児にとっては強制喫煙となり、流産、早産、死産、低出生体重児、先天異常、新生児死亡などの危険性が高まります。また、出生後の家庭内(特に母親)の喫煙による受動喫煙で、乳幼児の喘息様気管支炎、乳幼児突然死症候群の危険性が高まります。

 

 

歯周炎との関係

 喫煙は、歯肉(歯ぐき)の毛細血管の収縮を引き起こすことで歯肉の血行を低下させ、歯肉のヘモグロビン量をも低下させて、一時的に歯肉内の酸素量を低下させます。また、歯周炎歯槽膿漏)の原因となる細菌を退治する、血管内や組織内の白血球の能力を低下させ、それらの細菌に破壊された歯肉を復元する細胞の能力も低下させるといわれています。

 それにより、と歯肉との隙間である「歯周ポケット」が深くなりやすく、歯を支えている骨:歯槽骨(しそうこつ)の吸収が進行しやすく、また、治療を行っても治りにくくなるため、歯周炎が進行してしまいます。喫煙者は、非喫煙者に比べて約4倍歯周炎になりやすく、1日にタバコを吸う本数が多いほどその傾向は強く、1日31本以上吸っている人は約6倍ほどに高まるそうです。その結果、歯が抜けやすく、残っている歯の数が少なくなるため、ヘビースモーカーは入れ歯を使用している方が多いようです。

 一方、禁煙するとその年数が長いほどタバコの影響が少なくなり、2年以内だと約3倍歯周炎になりやすいのに対し、11年以上たつと1.15倍と、喫煙経験がない人とほとんど差がなくなってきます。

 

 

口腔癌との関係

口腔癌(こうくうがん)は、世界的にみて10大癌の1つにあげられ、この癌にかかる頻度は、インド、マレーシア、シンガポールに住むインド人に高いです。これは、火のついた部分を口腔内(口のなか)にしたまま喫煙する逆喫煙や、無煙タバコの一種であるビーテルクイドの使用が強く関係しているといわれています。口腔咽頭領域の癌患者の約90%が喫煙者であるという報告もあります。

口腔癌の発生部位は、が最も多く42%を占めますが、これは、直接喫煙の刺激がある部分で、タバコに含まれる有害物質が貯留する部分であるからだと考えられています。

喫煙者は、口腔癌にまでならなくとも、その5〜15%が癌化するといわれている白板症はくばんしょう)になり易かったり(非喫煙者の発生頻度が3.6%に対して、喫煙者は15.8%)、歯肉や粘膜が黒ずんでくることがあります。

 

その他にも喫煙で、歯への着色(いわゆるヤニ)や、口臭味覚・嗅覚の低下、ドライマウスを引き起こすといわれています。

 

 

健康増進法

 2003年5月1日施行された「健康増進法」の第5章 第2節 第25条で、「学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他の多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない。」とされました。つまり、公共の場所(交通機関を含む)は全て、禁煙または完全分煙の措置を講ずる必要が生じ、受動喫煙の防止が義務づけられたのです。

 

 

たばこ規制枠組み条約

 喫煙に関連した死者が世界で年500万人に達するなか、「たばこ規制枠組み条約」が、2003年5月の世界保健機関(WHO)総会で採択され、2005年2月27日に発効されました。発効日までに167国と欧州連合(EU)が署名し、消費量世界第3位の日本も含めて57国が批准しました。

 この条約はタバコの有害性を明記したうえで、消費削減につながる課税強化、広告・販売促進・スポンサー行為の禁止規定などを盛り込んでいます。また、主要包装面の原則5割以上を健康警告表示にあてること、タバコ自販機を未成年者が使えないようにすることも、締約国に義務づけています。

 喫煙に関連した死者が年10万人、1兆3000億円の医療費が余計にかかっている日本は、タバコ価格が先進国中で最低水準のうえ、飲食店や職場での禁煙が遅れるなど、規制が甘いことが若年層の喫煙などの背景にあると指摘されていました。これを受けて批准国の日本でも、2005年4月からの屋外広告禁止や禁煙教育の強化、分煙の徹底などが決まっており、先進国のなかで遅れていた規制がやっと強化されることになりました。

 

 

日本歯科医師会禁煙宣言  2005年5月31日

 喫煙と無煙たばこの使用、ならびにそれに伴う受動喫煙による健康被害は、がん・心臓病全身の健康に影響を及ぼすことが明らかになっている。

 喫煙は口から行われるため口腔領域に直接的影響を及ぼし、歯周疾患、口腔がん、根面のう蝕、口唇・口蓋裂、歯の喪失、歯や歯肉の着色、口臭など、その被害は多様である。さらに、喫煙は、歯周治療、インプラント、抜歯の術後治癒に影響し、治療歯の喪失や充填物の着色など主要な歯科治療の効果にも重大な影響を及ぼす。

 たばこの消費が健康に及ぼす悪影響から現在及び将来の世代を保護するため、たばこの使用の中止及びたばこへの依存の適切な治療をすすめることは、保健医療専門職としての基本的な役割である。また、口腔領域は喫煙の悪影響と禁煙の効果を直接確認することが容易であることから、歯科保健医療専門職による喫煙対策の推進は効果的であり、国民の健康に大きく貢献できるものである。

 このような背景をもとに、日本歯科医師会は、国民の口腔および全身の健康とより良い歯科治療を確保するため、喫煙対策が重要な課題であることを認識し、以下に掲げる行動規範を推奨することにより、積極的に喫煙対策を推進することを宣言する。

 

行 動 規 範

l        喫煙対策を推進する保健医療専門職の模範としての役割を担う。

l        喫煙対策に関する調査とその評価を行い対応する。

l        施設ならびに行事を禁煙化し、健康に関連する行事に喫煙対策を含める。

l        日常的に喫煙の状況を尋ね、禁煙の助言と支援を行う。

l        歯科専門職の教育研修プログラムに喫煙対策を含める。

l        5月31日の世界禁煙デーの活動に積極的に参加する。

l        喫煙対策活動のネットワークに参加する。

日本歯科医師会 

 

 

 

禁煙治療 保険給付対象に

 これまで全額自己負担だった禁煙治療が、2006年4月より、公的医療保険の給付対象になりました。日本循環器学会や日本呼吸器学会など9学会が、喫煙を「ニコチン依存症と関連疾患からなる喫煙病」、つまり病気と位置づけたため、厚生労働省も禁煙治療の保険適用を決めたのです。

 誰も勧めていないのに喫煙を始め、嫌煙者や環境にも迷惑をかけている喫煙者に、嫌煙者も支払っている保険料を使っての治療はおかしいのでは? 感情的には私もそう思います。しかし厚生労働省の試算によると、禁煙治療の導入で当初は医療費が増えるものの、肺癌や心筋梗塞など喫煙が大きな要因とされる病気を抑えることで、8年目からは医療費が減少に生じ、15年後には約1846億円を節減できるとのことです。欧米ではニコチン依存症を慢性疾患ととらえる動きが広がっており、イギリスでは1999年から禁煙治療が保険対象に、アメリカでも民間保険会社の8割超が禁煙のための薬剤費などを保険給付の対象にしているとのことです。

 今回から保険適用される禁煙治療の対象者は、@ニコチン依存度テストで依存症と診断されている、Aただちに禁煙しようと考えている、B禁煙治療を受けることに同意している、C[1日の喫煙本数×喫煙年数] が200以上、のすべてに該当する人です。

 保険が効く治療回数は12週間に5回で、5回で禁煙できず、その後も治療を続けるときは自己負担になります。またいったん禁煙できたのに再び喫煙してしまい、あらためて保険で治療を受ける場合は、前回治療の初診から1年以上たっていることが必要で、それ以内だとやはり自己負担になります。

 なお残念ながら、「歯科」での禁煙治療は保険適用にはなりません。

 

 

タバコ1箱1000円

 たとえば、1箱20本入り300円のタバコを、たばこ税を値上げして1000円にする。日本財団(日本船舶振興会)の笹川陽平会長が提唱する、そんな健康政策を推進する超党派の議員連盟が、2008年6月13日に発足しました。

 そして、2009年11月21日、全国紙に以下の全面広告が掲載されました。

私たちは、「タバコ一箱1000円」を求めます。

「タバコは体に良くない」

       それは誰もが知っている。

「簡単に止められない」

       それは本人が一番知っている。

 

タバコが1箱1000円になれば、

 9割以上がタバコを止めるという報告もあります。

意見広告賛同者

日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会、日本看護協会etc

日本歯科衛生士会、日本歯周病学会、日本口腔外科学会、日本歯内療法学会etc

 

 日本のタバコには、1本あたり7.924円のたばこ税、国鉄債務返済に充てられる0.820円のたばこ特別税、それに消費税がかかっています。1箱20本入り300円のタバコの場合、174.88円がたばこ税とたばこ特別税、14.28円が消費税です。

しかし、日本のタバコは欧米諸国に比べて安すぎるのです。代表的な銘柄の場合、英国では1箱848円の税金がかかり1109円、米国ニューヨーク市では592円の税金がかかり987円、フランスやドイツでもやはり倍以上の価格なのです。「価格が安いから日本の喫煙率は高い。1箱1000円にすれば、無秩序にタバコを吸う習慣から、節度ある喫煙に変わっていく」というのが笹川氏の主張です。健康増進のためにも、1箱1000円という提案に大賛成です。

 

 

タバコやめませんか?

 

5月31日は世界禁煙デーです

 

 

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