「新しい進化論の誕生ですね。進化とはその生命体の好みによって遂げられる。友人にも言っておきましょう――それにしても、随分話が脱線してしまいました。もっとも彼女、エレノア・ベイツさんは、私にとって純粋に、研究のための貴重な情報提供者であっただけですので。彼女の私的な部分に関しては全くと言っていいほど、私は知らないのです。と言うより、知ってしまわないよう気をつけていました」
そこでホイットニー氏は少しだけ表情を固くして、背もたれに深く体を沈めた。
「デロス星人の彼女のことです。聞けば何でもあらいざらい答えたでしょう。決して争わない、拒否しない、デロス……。ですから個人的なことは一切質問しませんでした。デロス星について尋ねる時も、私なりに慎重に行ったつもりです。こういうわけですので、実はあなたのお役に立てるようなことを、何一つお話できないのです」
「そんなことはありません」 ロイは言った。
「デロス星のことを詳しく聞けて、ずいぶん参考になりました。あ、あともう一つ、彼女が最後にここを訪れたのがいつだったかを、お聞きしておきたいのですが」
「一ヶ月ほど前です。そう、ちょうどリリアさんを連れていらした、その日が最後でした。そう言えば――」 ホイットニー氏はそこで少し首を捻った。
「その時のエレノアさんの様子が、いつもと少し違っていました。一緒にいるリリアさんの影響かとも思ったのですが。何というか、何か深い悩みを抱えているような、そんな印象を微かに受けた記憶があります。もしかしたら、その頃家庭の中で何かあったのかも――」
「いえ、モーガン氏と彼女の間に問題が生じるのは、もっと後です」
「……モーガン氏?」
「ええ」 ロイは不思議そうな表情のホイットニー氏を見て言った。
「実は彼女の本名は、アイラ・モーガンというのです。エレノア・ベイツというのは偽名で」
「偽名?」
「ええ。他にもいろいろな所で、彼女は別の名前を使っています。レイチェル、ミリー、カミーラ――」
「ちょっと待ってください」 ホイットニー氏は椅子から腰を浮かした。
「その名前、どこかで聞いた覚えがあるのです。レイチェル、ミリー、カミーラ……」
「他にもあるんですよ。リュル、マレーネ、オルガ――」
「ああ、思い出した」 ホイットニー氏はついに椅子から立ち上がった。
「待って下さい、この辺に――ああ、あった。これだこれだ」
そう言うとホイットニー氏は、ぎっしりと本で埋め尽くされた書棚の中から、とりわけ古ぼけた、あまり分厚くない一冊の本を取り出した。表紙には、薄っすらと何かの絵が書かれている。ホイットニー氏はその本を持って再びロイの正面に座ると、用心深くページをめくってそれを見せた。
破損が激しく裏表紙は失われ、しみや虫食いだらけのページはどれも色あせていた。それでも、かつてそこには鮮やかな色彩を放っていたであろう、さまざまな絵が描かれていること。そして、既知ではないが、確かに文字であろうものが、見やすい大きさであまり多くなく連ねられていることは、十分に認識できた。つまりはそれが、どこかの国の子供向けの本であることを、ロイは容易に理解した。
「ここです。これ」 ホイットニー氏があるページを指差して言った。
「アイラ・ドゥー。彼女は星が大好きでした。だから彼女は、一番輝く星から来た男と結婚しました」
「それが、ここに書いてあるのですか?」
「そうです」 ホイットニー氏が答えた。