リリア(ロイ&モイラ・シリーズ1)                  
 
  第三章 強行突破  
         
 
 

 

「アイラさん、アイラ・モーガンさん、いらっしゃいますか?」
 出発まで十五分と迫った、JP407の第三船室内を駆け抜けながら、繰り返し、モイラは叫んだ。
 だが、その声に反応する者はいない。
 ここじゃないなら、ロイが行ってる第四か、後は第五。
 モイラはそう心に呟くと、今来た通路を引き返して行った。
 この、一見無謀に見える強行突破を彼女が決断した理由は、二つあった。
 中央ホールを抜けるのに、多大な時間を要する結果となった例の爆発事故のため、各搭乗口の警備が手薄になっていたことにある。警備員のほとんどが、事故現場に集結していたのだ。もっとも、この搭乗口に辿りつく前に、乗客のセキュリティチェックは終了しているので、通常の場合もそう厳重な警備がされているわけではない。せいぜい二人、それなりの腕を持つ警備員が立っているだけである。しかし、今日はそれすらもなかったのだ。
 そしてもう一つ、このJP407がジオステーション経由、デロス星行きであるということ、すなわち小型船であるという事実が、モイラに決断を促した。
 ジオステーションとはホーネル星、正確には惑星だが、この周りを回る衛星ジオのことを指す。JP407はそこで外宇宙用の船、つまりは、長距離、長時間の旅行に耐え得る空間や諸施設が備えられた、ちょっとした町並みの規模を持つ大型船に組み込まれる。それまでは、各二百名余の座席が並べられただけの、船室五部屋を有する小型船に過ぎない。
 これなら残りわずかな時間でも、アイラを探し出すことができる――。
 モイラは第三船室を飛び出した。ほとんど同時に第四船室のドアが開き、リリアを抱いたロイが現れた。
「こっちはいない」
「こっちもよ。後は第五!」
「よし、急ごう! もう、あまり時間がない」
「それに、そろそろ警備員が来るかもしれないわ」
 モイラの不安にロイが答えた。
「三人くらいまでなら、任せてもらってもいいんだけど」
「頼りにしてるわ」
 モイラは軽く微笑むと、先に第五船室内に入って行った。すばやくロイも後に続く。しかし、彼はほんの数歩歩いただけで立ち止まった。目の前のモイラが急停止したのだ。
「アイラ・モーガンさんですね」
 そう、モイラが話しかけた人物に、ロイは視線を送った。小さく縦に首を振った美しい女性を見て、ロイは思わず目を見張った。
 なるほど、まさしくコピーだ。
 髪や瞳の色、顔かたちがリリアとそっくりであることは、写真でも十分に理解できた。だが、アイラを目の前にした今、それらは実に些細な部類に入ることを、ロイは知った。
 例えば、肌。二人とも透き通るような白さであるが、その微妙な色合いだけではなく、質感、輝き、艶やかさなど、人間の目で認識できる全ての点で、全く一なるものなのだ。瞳にしろ、唇にしろ、それは同様で、そこには大小の差、大人と子供の差しか存在しない。
 あまりにも整った二組の美しい顔は、まるで、大量生産された部品を組み立てて作られたような錯覚を、見る者に覚えさせる。
「実は私達、モーガン氏から御依頼を受けて、あなたをお捜ししていたのです」 モイラは言った。
「申し訳ありませんが、ここはいったん船を降りて頂いて、私共の話を聞いて頂けませんか?」
「ナンだよ、テメーら」
 品のない声が、モイラに浴びせられる。発したのは、モーガン夫人の隣に座っていた、一見好青年風の若い男だった。
「だいたい、アイラ・モーガンてのは誰なんだよ。カノジョはパメラ。パメラ・ルーっつーの。オレたちゃ、新婚旅行中なんだぜ! 変なこと、ほざくんじゃねえよ!」
 モイラはその声の主をじっくりと観察した。そして彼女は理解する。モーガン夫人がこの船に乗りこむことができたのは、この男の手によるものであることを。そして、もちろんそれが、運命的な恋による結果ではないことも。

 
 
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  第三章・4