スターダスト                  
 
  第四章 外れ行くもの  
         
 
 

 

 白いバームクーヘンが、ゆっくりと振動を開始する。銀の羽根を翻し、戦闘機の群れが巣に帰っていく。呼吸を合わせ、地球軍も引く。敵味方、入り乱れて戦った空域が、飛散した犠牲者の残骸のみを抱え冷えていく。
「作戦終了。全機、ただちに帰還せよ」
 なんの感情も含まないイライザの声が、くどいくらい繰り返される。今日は出番がなかった。イライザが操る、無人の戦闘機が次々と敵を撃ち落し、闇に果てるのをただ後方から眺めていた。今にも飛び出していきたい衝動を、必死で押さえた。心の中の、引いてくれるなという叫びが音とならぬよう、堅く唇を噛み続けた。
 ごっこは終わった。マークは操縦桿を握り締めた。
「作戦終了。全機、ただちに帰還せよ」
 全機――?
 マークは鼻で笑った。胸の内で悪態をつく。
 全機とは、どれを指す? 指揮官なら、的確に命令を出すべきだ。
「マーク」
 心の呟きを、見透かしたかのようなタイミングで、イライザの刺々しい声が響いた。
「何をしているの? 全機、帰還命令が出ているのよ」
「知ってる」
 淡々とした口調で、マークは答えた。
「残存兵がいないか、確認するだけだ」
「それは、掃討班の仕事でしょ?」
「大丈夫。やつらの分け前をよこせとは言わないよ。これは、ボランティアだ」
「マーク」
 内在する怒りと、それを無理に押さえつける力とが合わさって、イライザの声が震える。
「これが最後の通告です。ただちに帰還して下さい。命令に従わない場合は、その時点で制御権を剥奪。こちらで強制帰還させます」
「……ラジャー」
 マークは戦闘機の向きを変えた。
「降参だ」
 すっと、イライザの息を吸い込む音が、機内に響く。マークの口元に、淡く笑みが浮かぶ。
「と、言うとでも思ったか?」
「――マーク!」
 遅いぜ――。
 全身にかかる、最大級の負荷。歯を食いしばってその力に耐えながら、マークは戦闘機を大きく旋回させた。手にはまだ、自由がある。
 ガードコニカリー・システムの境界線近くを、沿うような形で飛行していたマークは、イライザの警告に、いったんは基地に機首を向けた。そして、最大加速をかけると同時に、とんぼ返りを打つ芸当をやってのけたのだ。一瞬にして、イライザの手から逃れる。
「マーク、戻って!」
 システムは届かないが、通信可能域は抜けていない。機内に響くイライザの声を、マークは容赦なく遮断した。
 これで、邪魔は入らない。
 全ての意識を、前方に注ぐ。ゆったりと後退する母船。周りには、まだ無数の敵機が、蜂のように飛び回っている。無謀なことをするつもりはなかった。敵機の群れに突っ込むことも、巨大な敵母船に仕掛けることも、考えていない。
 目標は……。

 
 
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  第四章・4