レーダーを見やる。散漫とその場に散らばる光点の中に一つ、ちょうどレーザーの射程距離ぎりぎりのラインを、駆け抜けていくものがあるのを捉える。
いた!
マークの戦闘機が、最小の動きで向きを合わせた。彼が狙っていたのは、傷つき、群れから逸れた敵機だった。こんな場合、大概はすぐに自爆してしまう。その辺り、デルドーマ星人はかなり無情だ。戦闘領域を離脱する際、母船はスピードを緩めない。空中戦に駆り出されているのは、速さに自信のあるスカーレットタイプだが、損傷を受ければ性能など関係ない。ついて来れないものは、あっさりと見捨てられる。稀に、十数機にも及ぶ編隊が、救助にくる場合もあるにはあるが、彼らの中に仲間を助ける意志は少ない。
だが、そのせいで、我々には捕虜という手札がない。死んだ姿ですら、ごくわずかだ。一方、逆はかなりある。公には全て戦死となっているが、その中には、遺体も機体も回収できなかったものが随分と含まれている。残念ながら、敵に捕虜という札を切る慣習がないために、事実の確認は不可能だが。
マークの指先が、微かに動いた。光が飛ぶ。敵機を貫き、ばらばらに砕く。その残骸の中を掠め飛びながら、次なる獲物を探す。
対応が遅れてるな。
もしこれが、システム領域内なら、迷うことなくすぐ自爆したであろう。しかしまさか、領域外まで追ってくるとは、想定しなかったようだ。
ふざけた話だ。そんなこと、誰が決めた? 何を頼りに、それを信じる?
煌く光がまた一機、宇宙の海に命を散らす。と、ほとんど同時に、そのすぐ横でふらふらと漂うように飛行していた敵機が自爆した。
「ここまでか――」
次々と目の前で自爆していく姿を眺めながら、マークは低く呟いた。
彼のこの行動に、戦略的な意味は全くなかった。放っておけば、そのうち自爆する戦闘機を撃ち落したところで、戦況に何の影響ももたらさない。しかし、マークは満足していた。たった二機だが、自爆を許さなかったことに。しかもそれを、ガードコニカリー・システムの領域外で行ったことに。永遠にこの争いが続くことを望んでいるとしか思えない、生ぬるい暗黙のルールを破ったことに……。
「でも、これでもう……」
マークは小さな空間の中で、一人ごちた。帰りたくなかった。基地に戻ればもう二度と、空を飛ぶことは許されないだろう。どんな処罰より、それが辛い。そう思えばこそ、これまで自分を押さえてきたが。とうとう我慢できずに、勝手な行動をとった。せっかくジョルジュが警告してくれていたのに。
いっそこのまま、燃料が尽きるまで飛び続けていようか。その先にあるのは、もちろん同じ未来だ。が、今すぐ帰るより、救助隊という名目で捕まえにくるのを待つ方が、より長くこの機と別れを惜しむことができる。
マークは大きく息を吐いた。軽く首を横に振って、この子供じみた発想を追い出す。さすがに、そこまで仲間の手を煩わせるのは気の毒だと思う。
視線を転じる。基地に向かって、自機を旋回させる。その目の端に、何かが過る。レーダーの中で、赤い光点がすっと動く。
まだ一機、残っている――?
戦闘機が、空に大きな円を描く。正面に、敵機を捕らえる。自爆装置に加え、航行機能にも傷害を受けたと見え、ひらひらと哀れを誘うように舞っている。マークの目が、機内に溢れる数字の一つを拾う。
このまま帰るだけなら問題なし。一発で撃ち落した場合も、なんとかエネルギーは足りるだろう。
しかし、マークの計算はそこで止まらなかった。このままとって帰ることも、撃ち落すことも、彼は選択肢にいれていなかった。
スピードでかわすか、それとも距離でかわすか。相手の射程内に入らなければ、敵も動いてくれないだろうし。結論、どれだけやつが余力を持っているかで、全てが決まるな。飛び込んでみるしかない。
マークの機体が、伸びやかな加速を始める。逸れた敵機との、距離を縮める。マークはこの敵機の捕獲を考えた。ちなみにルールでは、まだ生きている敵機に近付くことは禁止されている。自爆の巻き添えをくらう恐れがあるからだ。しかしマークはその恐怖より、興味の方を優先させた。単純に、一度彼は聞いてみたかったのだ。この膠着した争いをどう思っているのか。多くの労力と命と時間。それらをかけて、ただ無為な時を刻むことをどう感じているのか。デルドーマ星人に、マークはどうしても尋ねてみたかったのだ。