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[AM11:40 北ブロック]

やがて掃除を終えた俺は、あらかじめ用意しておいた篠崎への誕生日プレゼントを持って、やつを探してパーティーの誘いをかけるために寺西厩舎を出た。携帯を使えれば一発なのだが、例によって相手が俺だと出てくれないだろうから、自分の足で探すしかない。
やつがいそうな場所の第一候補は東屋厩舎だ。歩いて数分の距離で、自転車に乗る必要もない。

だが……。

俺の足は、さっきやつがいた木の下に入って動かなくなってしまった。
もちろん暑いからではなく、不安だからだった。

どう言えば、あの篠崎を連れ出すことができるだろう。相当に言葉を選ばないと成功しそうにない。
まずはこれを渡して、それから……。
その前に何か、どうでもいいような話をして、気分を変えた方がいいかな。
いや、そんなことしたら、あいつは機嫌を損ねるだけだな。

……考えているうちに、自分の胸を埋めているのが不安ではなく、後ろめたさであることに気付いてきた。
本当に俺なんかが、篠崎の誕生日を祝っていいのだろうか。仲よくなりたいのは確かだが、あの日の罪も真理子ちゃんへの想いもひた隠しにして、呑気な笑顔で「おめでとう」なんて言う……本当に、それが正しいのか?

だが……俺にはわかっていた。
例え正しくなかったとしても、俺は無理に正しいと信じ続けるのだろう。
表向きは「今日のために長瀬を呼び戻したから」。
そして、本心は……。

 

 

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