15号 2001年3月 顎関節症

 

私が以前、長野赤十字病院で研修医をしていた頃、3月〜4月に患者さんの来院数が増える病気がありました。その病名は顎関節症(がくかんせつしょう)。数年前、森高千里がかかった病気なのでご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、では、なぜこの時期に患者さんが増えるのでしょうか?

 

顎関節症とは?

顎関節症とは、口が大きく開けられなかったり、あごを開閉するときに関節や筋肉が痛んだり、コキンという音やジャリジャリというこすれる音がしたりする、などの症状が続く病気の総称です。症状の現れ方や原因は人によってさまざまですが、多くの人は、上あごと下あごの間でクッションの役割をしている「関節円板」に関係していて、20代の女性に比較的多く見られます。

原因は多様で複雑なため、本当のところはまだよくわかっていないのですが、歯ぎしり、くいしばり、噛み合わせの悪さ、顔に受けた衝撃や、大きなあくび、片側だけで硬い食べ物を噛む習慣、頬杖やうつぶせ寝などの姿勢の悪さ、ストレスなどがあげられます。これらによって、関節に強い力が加わったり、小さくとも持続して加わることにより、関節円板がずれ、あごの開閉のたびに引っかかりこすれて炎症が起きたり、余分な筋肉を使って筋肉痛を生じたりします。

20代前後には、受験勉強中のくいしばりや姿勢の悪さ、進学や社会に出たときのストレスなどから、顎関節症を発症しやすく、また学生は3月〜4月が休みになるため、この時期の来院が多いようです。

  

生活習慣の改善を心がけて

顎関節症になってしまったら、第一に安静です。あごの酷使は極力避け、顎関節症を引き起こしやすい生活習慣を改めましょう。

@      硬いものを噛まない・長く噛まない―――パンの皮や生野菜、硬い肉は避け、おかゆ、やわらかいうどん、そば、パスタなどがよく、ガムは厳禁。

A      口を大きく開けない―――食べ物は一口で食べられる大きさに。大きなあくびは避ける。

B      顔の表情をゆるめ、を噛み合わさない―――例えば、顔の筋肉の力を抜き、唇を閉じて、歯を接触させないようにする。

C      あおむけ寝、低い枕の使用―――うつぶせ寝は顎関節に負担をかける。

D      首のけん引、頬杖をしない―――あごに余計な力がかかるので避ける。

E      同じ姿勢を長く続けない―――パソコンやピアノなどを長時間使用し続けるときは、時々休息を取ってストレッチや運動をする。

F      姿勢に注意する―――猫背になったり、あごを突き出さないように。椅子に座る場合、腰の後方に丸めたタオルをあてがい、まっすぐに。

 

治療法は?

日常的に、上記のように生活習慣を改めても、問題は自分でコントロールできない睡眠中の歯ぎしり、くいしばりです。これは睡眠が浅い時に多く起こり、意識しているしないにかかわらず起きてしまいます。そこで、透明なプラスチックの板のようなマウスピースを歯にかぶせます。足をけがしたときにつえをつくように、噛み込みによる余分な力から、顎関節や周囲の筋肉、歯を保護しようとするとともに、これを装着することによる安心感の効果もあります。もちろん保険適用で、一般の歯科医院で製作してもらえます。

そのほかに、筋弛緩薬で周囲の筋肉の緊張を和らげたり、温めたり低周波の電気刺激で血行をよくしたりすることもあります。また、親知らずが横向きに生えてあごの動きが不自然になっているときは、親知らずを抜きます。

これらでも改善しないときは、注射で関節内の炎症物質を洗浄したり、潤滑作用を補う薬を注入したりすることもあります。また、関節円板が癒着して動かなくなってしまった場合には、手術で切り離すこともあります。

 

BACK<<

>>NEXT