第25号 2002年1月 糖尿病 生活習慣病
平成8年12月、当時の厚生省公衆衛生審議会において、従来の年齢にのみ注目していた「成人病」に変わって、生活習慣に着目した「生活習慣病」という概念が、新たに導入されました。
糖尿病とは 人間は、生命を維持するためにエネルギーを必要としますが、そのひとつとしてブドウ糖を使っています。ブドウ糖とは、ごはんやパン、麺類や果物などの糖質が消化されてできるもので、腸で吸収されて血液中に入ります。このブドウ糖の流れを調節しているのが、胃の後ろに位置する、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンで、それにより血液中のブドウ糖濃度(血糖)が一定に保たれています。 糖尿病とは、体のエネルギー源であるこのブドウ糖が、インスリンの不足や働きの低下によってうまく利用されなくなることにより、血液中のブドウ糖濃度の高い状態(高血糖)が続くようになって、その一部が尿糖として尿に出てくる病気です。初期の段階ではほとんど無症状ですが、糖尿病の三大症状(多尿・多飲・口渇)が現れる頃にはすでに進行しているケースが多く、糖尿病の状態が長く続くと、血管を中心に体のいろいろな部分に、合併症を引き起こします。 厚生労働省の2012年の国民健康・栄養調査によると、血液検査で血糖値の傾向を測るヘモグロビンA1cの数値が6,5%以上の、糖尿病が強く疑われる人は約950万人、ヘモグロビンA1cの数値が6,0%〜6,5%未満の、糖尿病の可能性が否定できない人は約1,100万人で、合計約2,050万人と推定されています。2007年の国民健康・栄養調査に比べ、糖尿病が強く疑われる人は約60万人増えましたが、予備軍は約220万人減りました。 糖尿病の種類 糖尿病には、大きく分けて2つのタイプがあります。 1型糖尿病(インスリン依存性糖尿病):小児から青年期に発症することが多く、インスリンの分泌が著しく低下しているため、血糖値が変動しやすくコントロールが難しいので、どうしても毎日のインスリン注射に頼らざるをえません。 2型糖尿病(インスリン非依存性糖尿病):中年以降に、過食、偏食、運動不足、ストレスなどの環境因子が加わることにより発症することが多く、食事療法や運動療法だけで治療できることも少なくありませんが、進行するとインスリンによる治療が必要になります。日本の糖尿病の90%以上はこのタイプです。 糖尿病の合併症 高血糖が長く続くと、血管は障害を受けやすくなり、細菌が感染すると繁殖しやすくなります。 網膜症:網膜出血や網膜剥離が起こり、重症になると失明します。 腎臓障害:重症になると、透析治療が必要になります。 神経障害 足の壊疽(えそ)および変形 動脈硬化症:重症になると、脳卒中や心筋梗塞を起こすことがあります。 肝臓障害 いろいろな感染症 歯周病への影響 微細小血管の変化:糖尿病が進行すると、末端の小さな血管において血液の通りが悪くなるため、栄養の供給や組織の修復が悪くなります。歯肉(歯ぐき)においても同じことが起こり、治療をしても歯肉の治りが悪くなります。 口のなかの細菌の変化:清掃不良なお口のなかでは、歯と歯肉とのすき間である歯周ポケット内に、多くの細菌がひしめいています。血糖値が高くなると、この歯周ポケットをみたす液体中のブドウ糖量も増えます。それによって、細菌の活動は活発になり、その数も増えます。 免疫力の変化:糖尿病の進行により、からだの免疫に重要な白血球の機能が低下するといわれています。歯肉においても、細菌の感染に対する抵抗力が低下してしまいます。 コラーゲンの変化:歯肉や歯根膜などの歯周組織を構成する主なタンパク質に、コラーゲンがありますが、このコラーゲンの合成が障害されたり、破壊が促進されたりします。 歯周病も糖尿病に影響する 歯周病になると、炎症を起こした歯肉を治そうとして、免疫細胞がさまざまなサイトカインという生理活性物質を分泌します。これらのサイトカインが歯肉に集まると、インスリンに対する抵抗性を高めるように作用するため、血糖のコントロールがうまくいかなくなり、糖尿病を悪化させることもあるそうです。 したがって、かかりつけ医による糖尿病のコントロールはもちろん、かかりつけ歯科医による歯周病のコントロールも大切なのです。 世界糖尿病デー世界の糖尿病有病者は、2011年9月で3億6,600万人、糖尿病に関連した合併症で亡くなる人は、世界で毎年380万人以上に上ります。こうした状況を踏まえて、IDF(国際糖尿病連合)は国際連合(国連)に働きかけを行い、2006年12月、「糖尿病は人々の生命に関わる脅威的疾患であり、世界は一丸となって糖尿病と闘う必要がある」と国連会議の採択にいたりました。疾病に関する国連での決議は、感染症以外の疾患としては糖尿病が初めてであり、決議と同時に、従来IDFとWHO(世界保健機関)が提唱していた「世界糖尿病デー」(インスリン発見者であるバンティング医師の誕生日である11月14日)を、国連として公式に認定しました。この日は、世界のさまざまな名所や建造物がブルーにライトアップされ(松本城もブルーライトアップされます)、糖尿病の治療や予防に向けた対策を世界規模で広めようと呼びかけられるようになりました。 メタボリックシンドローム
平成16年国民健康・栄養調査によると、わが国のメタボリックシンドローム人口は予備軍も含めると1960万人、40〜74歳の男性の実に2人に1人、女性の5人に1人の割合にのぼっています。 肥満の体型には、洋ナシ型とリンゴ型の2つのタイプがあります。 洋ナシ型は、女性に多く見られる、おしりの周りや太ももなどに脂肪が多くついている体型で、構成している脂肪は主に皮下脂肪。皮下脂肪には外との温度差から体を守ったり、生命維持のエネルギーになるなど、大切な役割があり、生活習慣病への悪影響も比較的少ないものです。 一方、リンゴ型は、上半身からがっしりとしてお腹周辺が丸々と太る体型で、主に腸管の周りに内臓脂肪がついてしまっており、リンゴ型こそ大きな注意が必要といえます。 問題になるのはこの内臓脂肪で、いろいろ悪さをする物質を分泌します。メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)とは、内臓脂肪が過剰にたまることで、血圧や脂質代謝、血糖値を下げるインスリンの効きが少しずつ悪くなった状態です。少しずつでも悪い因子が積み重なると、脳卒中や心筋梗塞など命にかかわる病気になる可能性が非常に高くなってしまうのです。
これに加えて、血圧値や血糖値などの項目が2つ以上当てはまると、メタボリックシンドロームとなってしまいます。これは生活習慣病の一部と理解するとよいでしょう。 |
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