1314号  2001年12月  フッ素

 

2000年(平成12年)11月17日、歯の表面を強くして むし歯を予防する効果のあるフッ素(フッ化物)を、厚生省(当時)が自治体の判断で水道水に添加することを容認いたしました。

 薬を水道水に?大丈夫なの?と お思いの方も多いと思いますので、今回はそのフッ素についてお知らせいたします。

  

フッ素は自然の中にある必須栄養素です。

フッ素は、地球の地殻を構成する元素で17番目に多い元素です。地中に平均280ppm存在するため、そこで取れるたとえばじゃがいもに0.82.8ppm、だいこんに0.71.9ppm、にんじんに0.5ppm含まれています。もちろん海水中にも1.3ppm存在するため、たとえばエビに4.9ppm、海藻に2.314.3ppm含まれています。また、飲み物にも、たとえば緑茶に0.10.7ppm、紅茶に0.51.0ppm、ビールに0.8ppm含まれています。つまり、フッ素は決して特別な物質ではなく、自然界に広く存在し、すでに無意識のうちに体内に摂取している必須栄養素なのです。

 

フッ素利用の歴史

 フッ素の研究は1901年に始まりました。アメリカの若き歯科医マッケイが、コロラド州を訪れた際に、住民の多くが奇妙な褐色のをしていることに仰天するとともに、それらの住民にはほとんどむし歯がないということを発見しました。その後その地域の環境や食生活を調べた結果、1931年、飲料水中の高濃度のフッ素が歯のエナメル質を着色させるという事実を発見し、1936年、アメリカ国立衛生研究所により、飲料水中のフッ素イオンが1.0ppm以下ならば着色歯の原因にはならず、むし歯の予防に大変効果があるということを発見しました。

 1945年、ミシガン州で世界で初めて水道水のフッ素化が行われました。11年後、この地域で生まれ育ったこどものむし歯有病者率を調べると、なんと60%減少していたのです。その効果と安全性を確認した WHOは、1969年、1975年、1978年と3回にわたって、加盟国へのむし歯予防のための水道水フッ素化実施を呼びかけました。現在は、国民の6割を越すアメリカを筆頭に、61ヶ国の人々がフッ素入り水道水を飲んでいるのです。1985年、WHOが各国の歯科医療を評価した際、日本は砂糖消費が少なく、保健所の指導など誉められた項目が多かったにもかかわらず、むし歯が多いのは 「最も重要なフッ素が欠けている」 からだという厳しい指摘を受けています。

 

フッ素の効果

 

 

 

@    再石灰化の促進 : フッ素イオンが口のなかに存在することで、歯の再石灰化(再度の結晶化)が促進され、脱灰していた(溶け出していた)エナメル質がより早く再生されます。

 

A    歯の質のフルオロアパタイト化 : 再石灰化の過程で歯にフッ素イオンが取り込まれると、ハイドロキシアパタイト結晶がより安定した、フルオロアパタイト結晶となります。その結果、歯の質の強化、耐酸性の向上につながります。

 

B    細菌に対する作用 : 細菌の酵素生成を阻害することで、酸の生産を抑制します。

 

フッ素の応用法

(1)全身的応用法

@      水道水フッ素化 : 地域住民レベルで行えるむし歯予防対策で、通常、1.0ppm前後の濃度(0.71.2ppm)になるように入れられます。気温の高い地域は飲料水量が多く、また、海産物を多く摂る地域もそれらから摂るフッ素量が多いため、濃度が低く設定されます。そのため日本では、0.8ppm以下とされます。最も効果のある方法で、4060%のむし歯予防効果があります。

A      フッ素錠剤 : まさに薬感覚で飲む方法です。個人輸入しないと手に入りませんが、3040%のむし歯予防効果があります。

B      フッ素入り食塩 : 海産物が手に入らない地域などで利用されています。

C      その他 : ミルク、スープ、ビタミン、パンなどにも入れられることがあります。

 

(2) 局所的応用法

@      フッ素洗口法 (ぶくぶくうがい法) : 個人でできる最も効果のある方法です。225100300ppmの低濃度フッ素水溶液を、毎日(小中学校では登校日)11分、10mlでうがいします。5080%のむし歯予防効果があり、当院でも洗口剤を販売しております。 なお、平成15年1月14日、フッ素洗口法の普及を図るため、厚生労働省より「フッ化物洗口ガイドライン」が通知されました。

A      フッ素歯面塗布法 : 高濃度のフッ素水溶液を、歯科医院で、歯に年間4(2)回塗ります。うがいのできないこどもにも応用できますが、むし歯予防効果は3040%です。当院でも実施しております。

B      フッ素入り歯みがき剤 : 今は多くの歯みがき剤にフッ素が配合されていますが、キシリトールが配合されていればなお良いです。2030%のむし歯予防効果がありますが、効果的な使用方法は次のとおりです。

@)ブラッシング時間は3分間以上とする方が良いです。

A)ブラッシング後のうがいは、1回あたりのうがい水量25ml以内

1回あたりのうがい時間4秒間以内

うがい回数2回以内とするのが望ましいです。

 

 歯は生えた直後は非常に脆く、その後3年くらいかけて、口のなかのカルシウムやリンなどが取り込まれて硬くなっていきます。その際にフッ素が取り込まれると、それらミネラル分がより安定したフルオロアパタイトに変わり、エナメル質が硬く丈夫になります。そのため親知らずを除いて、一番最後に生える12歳臼歯が生えてから3年後くらい、つまり15歳くらいまでの利用が非常に有効です。もちろん、大人になってからも有効で、しかも、一度硬くなった歯の効果はほとんどそのまま持続します。

 しかし、フッ素は特効薬ではないので、ブラッシングを怠ったり、だらだら食いをしていたらむし歯は進行してしまいます。

 

長野県内の自治体では

 長野県内では、昭和50年より佐久市の一部で、また昭和52年より中野市でもフッ素洗口を続けて、むし歯予防に効果を示してきましたが、南安曇郡(当時)内の豊科町(現 安曇野市豊科地区)でも、平成14年度から、保育園年長児から小中学生を対象に、フッ素洗口を導入しました。

 これを受けて三郷村(現 安曇野市三郷地区)でも、平成14年10月8日、「フッ素洗口に係わる学習会」が開催され、その後、平成15年度からの、保育園年長児から小中学生を対象にしたフッ素洗口の導入を決定。平成15年7月末、保育園年長児において、平成16年9月末、小中学生において、フッ素洗口が開始されています。

 平成17年10月の5町村合併で安曇野市が誕生後、平成18年度から全市内の保育園年長児が開始。小中学生は順次開始し、平成27年3月には全市内での開始となりました。

 

 

 

なお、フッ素についてもっと詳しい内容をお知りになりたい方のために、沖縄県久米島町で、水道水フッ素化の実現を計画した際の資料である、問答集(平成14年2月15日初版)の抜粋を掲載いたします。(フッ素 Q

また、平成15年1月14日に、フッ素洗口法の普及を図るため、厚生労働省より「フッ化物洗口ガイドライン」が通知されましたので、その一部も掲載いたします。(フッ化物洗口 Q&A

 

 

BACK<<

>>NEXT