24号 2001年12月 口唇裂・口蓋裂

 

口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)とは、上唇や上あごが裂けたままの状態で生まれてくる、先天的なお口の病気です。上唇だけが裂けている場合を口唇裂、上あごだけが裂けている場合を口蓋裂、上唇と上あごの両方が裂けている場合を口唇口蓋裂、または唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ)といいます。また、右側や左側の片側だけが裂けている場合は、右側(うそく)・左側(さそく)という部位名が、両側の場合は、両側(りょうそく)という部位名が、頭につきます。ちなみに右の図は、右側口唇裂の赤ちゃんです。

 口唇口蓋裂をもって生まれると、その裂けぐあいにもよりますが、哺乳の問題から始まって、上唇や鼻の形、発音の問題、あごの発育や噛み合わせの問題、中耳炎の問題、学童期や思春期の心理的な問題などさまざまな問題が起こります。そのため、小児科を始め、小児歯科、口腔外科、形成外科、言語治療士、矯正歯科、耳鼻咽喉科、一般歯科、場合によっては心理療法士との連携をとった、「チームアプローチ総合治療」を行うことが大切です。

 

原因

 口唇裂・口蓋裂は、全身の体表面における先天異常の10〜17%と、高率にみられる異常です。人種別でも、欧米白人で700人に1人なのに、日本人では500人に1人の割合で生まれてきます。

原因については、未だにはっきりとしたことはわかっていませんが、多因子性遺伝によるものと考えられています。これは、口唇裂・口蓋裂の赤ちゃんが生まれた両親が、次の子を産む場合や、その赤ちゃんが将来結婚しこどもを産む場合に、再度、口唇裂・口蓋裂の赤ちゃんが生まれる可能性がいくぶん高いからです。しかし、この原因となる遺伝子は特定されているわけではなく、多数存在し、しかも誰でもが持っているものだと考えられています。

また、環境因子もかなり関与していて、ステロイドホルモン剤やサリドマイド・抗がん剤・抗けいれん剤などの薬剤使用、タバコのニコチン、アルコール、栄養素としては、ビタミンA が不足すると発生しやすいといわれています。

女性の晩婚化傾向に伴う高齢出産も原因ではないかという研究もありますが、母親の年齢が高い場合は、父親の年齢も高いことがほとんどで、男性の高齢も同様に問題であると考えられます。

 

新生児期

 重篤な合併症がなければ、口唇裂・口蓋裂の存在そのものが、生命を脅かすことはありません。 哺乳障害対策と家族カウンセリングが、最重要課題となります。

 哺乳は口唇口蓋裂の赤ちゃんが最初に直面する問題です。口と鼻との遮断がうまくできないために、おっぱいやミルクを吸う力が弱く、時間がかかったり、哺乳量が少なかったりと、母親にとっても不安な問題です。そこで、Hotz床(ホッツしょう)という一種の入れ歯のような装置を、できたら生まれた当日に製作します。Hotz床は、ただ単に口と鼻とを遮断させて、上手に哺乳できるようにする道具であるだけでなく、の異常運動の抑制や、あごの正常な成長を促す、矯正装置の役割もはたします。

Hotz床

Hotz床を装着したら、できるだけ、おっぱいをあげる直接哺乳を試みます。これは、母親としての自覚や自信、また母子双方のスキンシップなど、精神的な満足のためです。しかし、それだけでは哺乳量が少ない場合は、搾乳した母乳やミルクを、口唇口蓋裂用乳頭(乳首)をつけた哺乳びんを利用します。

なお、低体重児や呼吸困難を伴う赤ちゃんは、やむを得ずチューブ栄養となります。

 

乳幼児期

口唇形成手術:患児が生後3〜6ヶ月、体重6s以上を目安として、上唇の形成手術を行います。

口蓋形成手術:患児が生後12〜18ヶ月、体重10s以上を目安として、上あごの形成手術を行います。この手術の目的は、単に裂け目をふさぐだけでなく、正しく言葉が話せるように、上あごの筋肉の走行を整えることにあります。

言語治療:口蓋形成手術を受けただけでは、正しく言葉を話せるようにはなりません。場合によっては、スピーチエイドなどの発音補助装置を使って、鼻に抜けるような発音方法を正していきます。

むし歯治療:口蓋裂があると、歯並びが悪くむし歯になりやすいので、十分な注意が必要です。だらだら食いをしない正しい食生活習慣と、保護者による仕上げ磨きでむし歯を予防し、将来の矯正歯科治療のためにも、早期発見・早期治療が大切です。

 

学童期

 矯正歯科治療:口唇・口蓋形成手術を受けると、上唇や上あごが引っ張られて、上あごの成長が抑制されることがあり、歯がねじれて生えてきたり、歯の生える位置が異なっていたり、なかには歯の数が足りなくなったりして、反対咬合(受け口)や叢生(そうせい:乱杭歯)になってしまうことが多く、矯正歯科治療が必要になります。

 骨移植:上あごの骨がかなり少ない患児には、腸骨(腰の骨)を移植することもあります。

 

思春期・成人期

歯のない部位に、思春期には、仮の義歯(入れ歯)を製作し、成長が終了した成人期に、最終的なブリッジや義歯を製作します。

 

育成・更生医療

口唇裂・口蓋裂患者の矯正歯科治療は、医療保険が適用になります。

さらに、指定された特定の医療機関においては、18歳未満の場合は、児童福祉法に基づく育成医療が、18歳以上の場合は、身体障害者福祉法に基づく更生医療という公費負担医療により、その費用の一部ないし全部を国が負担してくれます。

 

 

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