34号 2002年10月 う蝕検知液

 

むし歯のことを専門用語で「う蝕(うしょく)」といいます。「う蝕検知液」とは、むし歯を検査する液体で、むし歯を削り取るガイドとなる唯一の材料です。

 

むし歯の診断

むし歯を削り取る場合、昔は、歯の着色や硬さ、経験による勘に頼っていました。しかし、これらだけでは正確にむし歯だけを取ることはできませんでした。それは、むし歯とひとくちにいっても、大きく分けて、急性のむし歯と慢性のむし歯があるからです。

こどもたちに多い急性のむし歯は、進行が早いため、色は白いのに軟らかいのです。色だけで判断するとむし歯を取り残すことが多く、硬さだけで判断すると必要以上に歯を削り取ってしまうことが多いのです。

逆に、進行が遅い慢性のむし歯は、色は黒いのに硬いので、色だけで判断すると必要以上に歯を削り取ってしまうことが多く、硬さだけで判断するとむし歯を取り残すことが多いのです。

 

むし歯の構造

 むし歯によって軟化した象牙質は、詳しく調べると2層になっていることがわかりました。外側の層(外層、第1層)は、むし歯の原因となる細菌(バイ菌)が感染して、再石灰化さいせっかいか:再度の結晶化)することができない死んだ層で、この層は削っても痛くないのです。これに対して、内側の層(内層、第2層)は細菌の感染がなく、再石灰化することができる生きた層で、この層は削れば痛みを生ずるのです。

 この第1層(外層)と第2層(内層)という2層の境界部は、歯の着色や硬さの程度とは無関係で、以前むし歯を削りとる目安とされてきた歯の着色や硬さは、ほとんど当てにならないということがわかったのです。

 そのうえ、歯の着色も硬さの変化も、はっきりした境界がなく自然的に移行しているので、経験による勘も、著しく不確かなものであるということがわかったのです。

 

CARIES DETECTOR

 1972年、東京医科歯科大学歯学部の総山孝雄教授が、1,0%アシッドレッドのプロピレングリコール液を用いると、むし歯の象牙質の第1層(外層)だけを赤く染め、第2層(内層)やむし歯でない正常層は染まらないので、この液体をガイドとして、赤く染まった部分だけを削り取れば、細菌の感染した象牙質を確実に取り除くことができることを発見しました。しかも第1層(外層)には知覚がなく、削って痛いのは第2層(内層)や正常層だけのため、染まらないところを注意深く削らないようにすれば、ほぼ無痛的に完全なむし歯の削除ができるのです。

 現在は、CARIES DETECTORの商品名で、世界各国で使用されています。

 

使用方法

 まず、象牙質の裏打ちのなくなったエナメル質を削除した後、う蝕検知液をむし歯内にたっぷりと満たし、約10秒後に水銃で洗い流します。すると第1層(外層)だけが赤く染まるので、その部分だけを削りとります。しかし、その浸透の深さには限界があるので、検知と削除を何回も反復する必要があります。そして、検知してももはや染まる部分がなくなるまで続けなければなりません。

 

麻酔はなるべくしないほうがよい

 ごく最近まで、むし歯の治療をする時に麻酔をするのが先進国の常識になっており、麻酔しないで患者さんに我慢させる歯科医師はバカにされていました。しかし、むし歯の治療が痛かったのは、う蝕検知液がなかったため、過剰に歯を削除していたからなのです。現在軟化していても、また再石灰化して丈夫な象牙質に戻ることができる第2層(内層)を残しておけば、歯の寿命を長くすることもできるため、なるべく麻酔はしないほうがよいのです。

 しかし、歯と歯の間で、なおかつ歯頚部(歯の根元部分)にできたむし歯は、むし歯でない健康な歯の部分も削除しないと、むし歯の部分に器具が到達できないため痛みを伴います。この場合は、麻酔をすることもあります。

 

 

 

BACK<<

>>NEXT