23号 2001年11月 歯の移植

 

 11月8日って何の日かご存知ですか? 答えは「いい歯の日」です。

私が属する南安曇郡歯科医師会では、2001年11月10日、豊科町保健センターにて、 いい歯の日のイベントを行いました。

 

歯を抜いたら即入れ歯?

 歯周炎歯槽膿漏)やむし歯ケガで歯を抜いてしまったら、その後にはブリッジや義歯(ぎし:入れ歯)などを作って補うのが普通です。 しかし、ブリッジは通常、両隣の歯を削って、土台としてかぶせ物をしなければなりません。むし歯がない歯を削らなければならないですし、たとえそれ以前にかぶせ物が入っていた歯でも、抜いた歯の負担を補うために、本来の1本分の歯以上に力が加わるため、寿命が短くなることが少なくありません。 さらに、義歯となると違和感はもちろん、「入れ歯」という言葉の響きが、精神的にもつらいものです。

では、残った歯に負担をかけない方法はないのでしょうか?

その答えとして、インプラント(人工歯根)と歯の移植という方法があります。

 

自家歯牙移植

 インプラントがあくまでも人工物であるのに対して、歯牙移植(しがいしょく:歯の移植)は生きた歯を移植するので、その後の管理がしやすくなります。

同一個体(自己)の臓器を切り離して、同一個体の他の部位に移して生着させることを、自家移植(じかいしょく)といいますが、移植される臓器が歯の場合、自家歯牙移植(じかしがいしょく)といいます。この歯が、同種族の中の他の個体、つまり他人のものである場合は、他家歯牙移植(たかしがいしょく)といいます。

他家移植は、免疫反応(拒絶反応)が発現するため、免疫抑制剤を使用しますが、その全身的な副作用の大きさを考えると、歯牙移植には使用すべきではありません。また、HIV(AIDSウィルス)や肝炎ウィルス、未知のウィルスに感染する可能性からも、歯牙移植の場合は、ほとんどが自家歯牙移植です。

 

歯のひっこし作戦

 

ドナーとなる移植歯に、最も適しているのは親知らずです。奥歯で、最も早く失う可能性の高い歯は、第一大臼歯(6歳臼歯)ですが、例えばこの第一大臼歯を失ってしまった場合、条件がそろえば、その2本奥にある親知らずを移植することができます。

 

しかし、ドナーは親知らずだけではありません。たとえば、下の歯が何本も連なって失われた場合は、対になってかみ合っていた上の歯が機能していないため、条件がそろえば、その上の歯を下に移植して、新しいかみ合わせを作りあげることもできます。

 

歯の移植にとって最も大切なのは、歯の根を取り巻いている歯根膜しこんまく)。移植するときは、できるだけ傷つけないように歯と一緒に植え込む必要があります。やっぱり歯も生きている臓器なのです。

 

歯の再生

 最近のテレビのニュースで、衝撃的な映像が映し出されました。背中にヒトの耳をつけたマウスの姿です。1996年にイギリスのロスリン研究所でクローン羊ドリーが誕生し、2000年には、セレラ社によってヒトゲノム(人間の全遺伝情報)の解読完了が宣言されました。

これらの発見は、自らの細胞で、機能不全を起こしてしまった臓器・組織を再生する「再生医学」が、夢ではなくなったことを意味しています。歯科医療でもその研究が行われていて、組織レベルでの再生はすでに可能なのだそうで、例えば、再生象牙質の実用化は、あと5年ほどだといわれています。

では、歯そのものの再生も可能なのでしょうか? 結論からすると可能なようですが、こうした治療を、すべての人が受けられる時代がいつ頃やってくるかは全く予想できません。再生医学は、今後の医療において極めて重要な役割を担っていくと考えられますが、同時に、とても特別な治療法であるともいえます。ですから、やはり今残っている歯を大切にすることが最も重要です。

 

 

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