HOME 平家詞曲概説
要約
紀元前のインドで生まれた弦楽器は、西洋ではリュートに、東洋では琵琶になりました。
日本には、成立した時代が異なる数種類の琵琶があり、別々に伝承されています。
13世紀に誕生した「平家琵琶」は、
12世紀末の源平合戦を描く『平家物語』を“語る” 「平家詞曲」に用いられるものです。

仏教で用いられる音楽を採り入れている平家詞曲は、
高い声を使ったり、低い声を使ったり、朗読のように語ったり、歌のように語ったりと、
いろいろな旋律の形式があります。その形式が変わる時、琵琶を弾きます。
この音楽は、日本の音楽の基礎となり、能や歌舞伎の音楽にも影響を与えました。

平家琵琶は、上流階級出身の盲人が中心となって、こんにちまで伝承されてきましたが、
17世紀以降は、眼の見える文化人たちも、教養として学びました。
『平家物語』を語れば、音楽・歴史・中国の故事・和歌・兵法などが、 一度に学べるからです。


Copyright:madoka 初版:2000年9月18日  / 英語版 / 仏語版

平家詞曲とは
『平家物語』の一部始終に 節をつけて語る伝承文化
「平家琵琶」という楽器を 音程の確認のために用いるものです。
平曲(へいきょく)、平語(へいご)、平家琵琶などとも呼ばれます。

『平家物語』には「諸本」と言って、いろいろな種類があります。
私たちは『平家正節(へいけまぶし)』という、
節のついた『平家物語』を使って、語っています。

「琵琶」にも、実は様々な種類があります。
「平家琵琶」は、「楽琵琶」とほとんど同じ楽器を使っています。

参照:琵琶について


平家詞曲の伝承
当道座(盲人職能団体)最高位の検校が、伝承の中心でしたが
江戸時代には、大名・武家・一流文化人(いずれも晴眼者)も伝承に関わっています。

江戸末期の弘前藩では、藩政の一貫として 
参勤交代の折に 藩主や藩士たちが平家詞曲を身につけ
藩主の命により 藩士楠美家(私の先祖)が平家詞曲伝承の家となりました。

参照:伝承者について


平家詞曲の音楽性

雅楽(ががく)と声明(しょうみょう)が基礎となっています。
のちに謡曲や浄瑠璃などに影響を与えました。

琵琶は曲節の導入などに弾くのみ、2オクターブ余りの声域で「語る」ものなので、
とても素朴です。

「曲節」とは、節回しのパターンのことです。
朗読調に語ったり、旋律を重んじたり、勇ましかったり
高い音を使ったり低い音を使ったりします。

参照:曲節について


平家詞曲の分類
曲節の特徴で分類する方法と、教習上の順番で分類する方法があります。

曲節上の分類
・節物(叙情的、旋律的なもの)
・拾物(拾の曲節を持ち、叙事的で勇壮活発なもの)
・書簡や願書を 特殊な節で朗読するもの。

教習上の分類
・平物 (『平家正節』一之上下〜十五之上下 161句)
・伝授物(揃物、炎上物、読物、灌頂など    33句)
・秘事 (大小秘事              5句)
・その他(八坂流「訪月」        以上200句)

参照:譜本について

Copyright:madoka 初版:2000年3月31日

免許皆伝者の呼び方
古くは当道座の「宗匠」が、現代では館山家が発行する免状に記されているのは
前田流平家詞曲相伝 です。
「前田流」は流派、「平家詞曲」は平家琵琶、「相伝」は免許皆伝の意味です。

江戸末期以降の「平家正節」による平家琵琶は「荻野流」または「正節流」と
呼びたいところですが、免状には「前田流」となっています。

平家琵琶は、本来「平家」と呼ばれていましたが、
江戸時代頃からは目で読む本「平家物語」と区別するため、しだいに
平語、平曲などと呼ばれるようになり、免状にも「平家詞曲」とあります。

「平家正節」は199句、これに「八坂流」とされる伝承句を加え
200句すべてを修得し、免許皆伝と認められると「相伝」となります。

古い記録を見ていますと、習得の過程において免状を出すことも可能で、
例えば100句習得の時点で「百句相伝」の免状を許すことがあるのですが、
修得ではありませんので、肩書きは「百句済」となります。
免状が無い場合は、「相伝」「百句済」などと名乗ることはできません。

Copyright:madoka 初版:2006年5月13日

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