第12号 2000年12月 妊娠中の管理 クリスマスはもちろん イエス・キリストの誕生日ですが、12月はそのほかにも、16日:ベートーヴェン、21日:スターリン、23日:明仁天皇、24日:ノストラダムス、26日:毛沢東・徳川家康・(ちなみに私も)、30日:東条英機と有名な人の誕生日が多い気がします。 誕生日→誕生→出産→妊娠ということで、今回は妊娠中の歯と歯肉(歯ぐき)の健康管理についてお知らせいたします。 (ちょっと強引な展開だったでしょうか?) 赤ちゃんのせいじゃないよ昔からよく「こどもを1人産むと、歯を1本失う」と言われますが、本当なのでしょうか? 答えは「NO!」です。 もちろん歯は、骨と同じようにカルシウムを主な成分としています。カルシウムには、歯や骨のような硬い組織を作る役割があるほか、神経や筋肉の活動に大変重要な働きをしています。ですからカルシウムは、貯蔵場所である骨から血液中に溶け出したり、または取り込まれたりして、常に血液中に一定の濃度で溶け込んでいる仕組みになっています。ところが、一度歯になってしまったカルシウムはもう血液中に戻ることなく、一生そのままです。したがって、お母さんの歯のカルシウムがあかちゃんのために使われるということはありません。
また最近わかってきたことなのですが、中程度〜重度の歯周炎(歯槽膿漏)になっている母親は、歯周炎の細菌の作る毒素や炎症を引き起こす物質が胎盤を刺激し、胎児の成長に影響を与えたり、子宮の収縮を促すなどして、低出生体重児(早産による未熟児)を出産する危険性が、健康な母親の7,5倍にもなるとのことです 妊娠中の食生活が重要丈夫なあかちゃんを産むためには、妊娠中の栄養摂取が大切であることは言うまでもありません。人間の健康は胎児期が出発点ですから、お母さんの責任は重大です。歯についてはカルシウムだけが強調されがちですが、これは誤りです。歯をつくるのに欠かせない栄養素としては、ビタミン、タンパク質、鉄分、ヨウ素、リン、マンガン、亜鉛などがあり、すべてからだにとって必要な栄養素です。 歯の成長と発育は妊娠の初期にスタートし、いったん出来上がってしまうと、あとからいくら栄養を補っても取り入れてくれません。歯の発育期に栄養が悪いと、歯の質にまで影響して取り返しがつかないことになりかねません。お母さんの妊娠中の食生活が、こどもの歯の運命を左右するのです。 最近の若い女性は誤ったダイエットをしがちです。不合理なカロリー制限は栄養のバランスを崩してしまい、このような女性が妊娠すると、母体の健康を害するばかりか、胎児にも重大な悪影響を与えることになります。出産によって妊婦は母体としての役割を終えるのではなく、こどもの離乳期までお母さんから「母乳」という成長の資源を求めるのですから、この時期までが母体といえます。 妊娠中は自己管理を妊娠中の歯や歯肉のトラブルを防ぐにはブラッシングがいちばんです。そのほかにも、バランスのよい食事と適度な運動、フッ素を利用して歯の質を強くすること、キシリトールを利用してむし歯の原因菌:ミュータンス菌を減らし、なおかつ唾液を多く出し口のなかが中性に戻りやすくすることが大切です。 もちろん、妊娠する前にトラブルを起こしそうな歯を治療しておくことも必要ですね。 妊娠中の歯科治療レントゲンの影響は? Ans 歯科治療で行われるレントゲン撮影の放射線量は、1年間に人体が浴びる自然放射線量と比べても微量です。歯科用のレントゲン撮影はお腹からも離れており、胎児への放射線の影響は無視できるレベルです。しかも、防護エプロンの着用により被爆量を軽減できます。したがって必要最小限にとどめれば、正しい診断や治療を行なうために、必要に応じてレントゲン撮影を行なっても問題ないと思われます。 麻酔の影響は? Ans 歯科治療で通常使用する麻酔薬(2%リドカイン)を、通常量使用した場合、胎盤を通過しても胎児に悪影響を及ぼす血中濃度にはならないことが報告されています。痛みを伴う治療であれば、それによるストレスの方が胎児に影響を与えるため、安定期(16週以降)の場合は麻酔を使用した方がよいでしょう。ただし笑気ガスは、妊娠初期(15週以前)では催奇形作用が報告されているため使用できません。 飲み薬の影響は? Ans 基本的に妊娠中は薬を内服しない方針で治療します。特に妊娠初期は胎児の器官や臓器の形成期にあるため、薬は使用できません。しかし、薬を使用しないことで母親に悪影響があると考えられる場合には、胎児への影響が少ない痛み止め(アセトアミノフェン)や、抗生剤(ペニシリン系・セファロスポリン系)を必要最小限処方します。ちなみに、当院では妊婦だけでなく、全ての方にこの薬を優先的に処方しております。 妊娠中に抜歯しても良いの? Ans 安定期であれば抜歯は可能です。抜歯しないことにより感染や慢性的な痛みが続き、妊娠に悪影響を与える可能性が大きいと考えられるときは抜歯をします。抜歯時に麻酔を使用し、抜歯後には痛み止めや抗生剤を処方しますが上記対応です。なお妊娠末期では、治療台で横になると低血圧からショック状態となることがあるので、緊急性がない場合は無理をせず、産後に抜歯することも考慮する必要があります。 むし歯治療で環境ホルモンの影響は? Ans 1996年に発表された「むし歯治療に使用される歯の詰め物から環境ホルモンの溶出」とする論文から、歯科材料と環境ホルモンとの関連が社会問題になりました。これを受け、国内外の多数の科学者が論文内容の真偽を実験によって検証した結果、米国歯科医師会や日本歯科医学会は、「歯の詰め物からの環境ホルモン溶出は確認できない」とする安全宣言を発表しています。 |
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