43号 2003年7月 シェーグレン症候群

 

 今回は、前回ご紹介したドライマウスを起こす合併症のひとつ、シェーグレン症候群についてです。

 

由来

病名は、スウェーデンの眼科医シェーグレンが、1933年に乾燥性角結膜炎で、耳下腺が高度に腫れた関節リウマチの女性患者について報告したことに由来しています。

日本の場合、1994年の厚生省研究班データによると、年間受診者数は約17,000人のため、潜在的な患者さんを含めると10〜30万人と推測されています。

こどもから老人まであらゆる年齢層で発症しますが、40歳代〜60歳代で76%をしめ、男女比は男性1人に対して女性14人と、女性に大変多く発症します。つまり中年女性に多い病気なのです。

 

 

自己免疫疾患

 シェーグレン症候群は、全身のさまざまな分泌腺(涙腺、唾液腺、鼻の粘液腺、皮脂腺、膣のバルトリン腺、関節など)が破壊される病気で、「自己免疫疾患(じこめんえきしっかん)」のひとつです。

 人は、細菌やウィルスなどの外来の異物が体の中に侵入してくると、これらを自分ではない異物であると認識して攻撃し、排除するはたらきが備わっています。この自分の体を守る防御システムを「免疫(めんえき)」といいます。

 ところがこの防御システムに異常が起こると、自分の臓器でありながら自分ではない異物であると認識して、その臓器を攻撃してしまうのです。これが自己免疫疾患で、シェーグレン症候群の場合は、多くの分泌腺を自分の臓器ではなく異物であると認識して、攻撃・破壊してしまうのです。

 

 

症状

目の乾燥(ドライアイ):涙腺が破壊されることにより、涙の分泌が減少します。目が乾くという感覚はわかりづらいですが、目が疲れる、目がコロコロする、目がかゆい、かすんで物がよく見えない、まぶしいなどがドライアイの症状です。しかしシェーグレン症候群の場合は、悲しい時でも涙がでないという、まさに泣くに泣けない状態になるのが特徴的です。

口腔乾燥症(ドライマウス):唾液腺が破壊されることにより、唾液の分泌が減少します。症状は前号を参照ください。

関節痛:関節痛だけでなく、関節リウマチを合併することもあります。

 その他、鼻の乾燥、唾液腺の腫れ、肌荒れ、膣の乾燥(性交時の痛み)などがあります。

 

 

原因

明らかな原因はまだわかっていませんが、遺伝的要素、環境要素、免疫異常、女性ホルモンの4つの要素が複雑に関連しあって発症するものと考えられていて、どれかひとつの原因だけでは発症することはありません。

遺伝的要素:自己免疫疾患は、その病気になりやすい要素を遺伝的にもっていることがわかっていますが、その形式は非常に弱く、シェーグレン症候群は他の要素と複雑に関連しあっていなければ発症しないと考えられています。

環境要素:EBウィルスとの関係が疑われていますが、このウィルスはほとんどの人の体内に潜伏しているといわれています。

免疫異常:免疫という自分の体を守る防御システムにおいて、異物を攻撃・破壊する武器を「抗体(こうたい)」といいます。自分の体の成分に対して攻撃・破壊する武器である、自己抗体の存在が必要です。

女性ホルモン:女性に大変多く発症することから、女性ホルモンが関与していると思われています。

 

 

診断基準

1999年に改定された厚生省の診断基準です。

 

1、 口唇腺組織か涙腺組織に、一定以上のリンパ球浸潤がある。

2、 唾液分泌量低下の証明。

3、 涙の分泌量低下の証明。

4、 抗SS-A抗体か抗SS-B抗体という自己抗体が陽性。

以上4項目のうち、いずれか2項目以上を満たせばシェーグレン症候群と診断されます。

 

 

治療法

 残念ながら原因がまだよくわかっていないため、根本的に治すことは出来ません。したがって、対処療法によってその症状を最小限に抑え、QOL(Quality of Life:生活の質)を向上させることを考えましょう。

 まず、これはシェーグレン症候群に限ったことではないですが、規則正しい生活を送り、十分な睡眠とバランスのとれた食事、適度な運動を行うこと、ストレスを避けることが大切です。そして、目や口、皮膚の乾燥を避けるため、エアコンや風の強い日の外出には注意が必要です。皮膚の乾燥に対しては、強い日光を避け、せっけんや風呂を頻繁に使用することも避けましょう。膣の乾燥(性交時の痛み)には、女性ホルモン入りのクリームなどを使用するとよいでしょう。

 

口腔乾燥症(ドライマウス)に対する治療:唾液分泌を促進する、シェーグレン症候群の保険適応内服薬としてフェルビテンがありますが、効果が不十分で尿の着色、腹鳴などの副作用がありました。そこで平成13年9月に認可された内服薬がエボザックとサリグレンです。約60%の患者さんに有効ですが、消化器症状(吐き気、下痢など)や発汗などの副作用が約30%にみられますので、初回投与量を少なくして、効果を見ながら週ごとに徐々に増量するなどの慎重な服用が必要です。

 このほか、保険適応外で唾液腺ホルモン:パロチン、植物性アルカロイド:セファランチン、去痰剤:ビソルボンやムコソルバン、漢方薬:白虎加人参湯(ビャッコカニンジントウ)や麦門冬湯(バクモンドウトウ)、などが有効な場合があるようです。

 

それ以外の対策は、前号をご覧下さい。

 

 

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