40号 2003年4月 睡眠時無呼吸症候群

 

 2003年2月26日、山陽新幹線の運転士が走行中に居眠り運転をしたという問題がおきましたが、この運転士が睡眠時無呼吸症候群であると診断されました。

 

 

睡眠呼吸障害

肥満が進み、上気道(のど)が狭くなったりつまるようになると、睡眠時に呼吸障害が発生します。疲れた時だけにイビキをかいているだけならそれほど心配はないですが、それが習慣化すると問題になります。毎晩のようにイビキをかいている:習慣性イビキ症が悪化すると、イビキが止んで呼吸が停止するようになります。10秒以上の呼吸停止を無呼吸といいますが、一晩7時間の睡眠中にこの無呼吸が30回以上認められるか、あるいは1時間あたりの睡眠中に5回以上の無呼吸が認められる場合、睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)といいます。

 

 

睡眠時無呼吸症候群

無呼吸の定義は10秒以上の呼吸停止ですが、軽症でも20〜30秒、重症では2〜3分も無呼吸発作が続いてしまうことがあり、また、一晩に30回どころか数百回も繰り返す患者さんもいます。無呼吸はいわば窒息状態で、睡眠時間中ずっと発作を繰り返していたら苦しくないはずがありません。

 無呼吸のあとに、爆発音のような大イビキをかくのは、不足した酸素を体内に取り込もうと大きく空気を吸い込むからです。激しくもがくような動きを伴っていることもしばしば見られ、寝相があまりよくないのもこの病気の特徴のひとつです。

 睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、人口の2〜3%にみられると考えられていますが、その型は3種類あります。脳からの呼吸しなさいという命令が届かず、呼吸運動そのものが停止して無呼吸となる中枢型、上気道(のど)が狭くなったり閉塞する(つまる)ことにより無呼吸となる閉塞型、およびその2種類の混在型ですが、閉塞型が圧倒的に多く、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の90〜95%をしめているとされています。

 

 

原因

一番の原因は肥満です。肥満とともにが太り、鏡の前で口を大きく開けても、のどちんこ(口蓋垂:こうがいすい)がはっきり見えないような方は、仰向けに寝たときに重力で舌の根元が下がり、上気道(のど)を圧迫するからです。痩せていても、舌の側面にの痕がつくような舌の大きな方も同様です。また肥満により上気道組織に脂肪がつくと、なおさら上気道が狭くなるのでつまりやすくなります。

 そのほか、扁桃腺肥大やアデノイド、上気道の筋力低下、鼻呼吸ができない、多量の飲酒や喫煙などがあります。

 

 

全身への影響

 イビキだけであれば、ベッドパートナーに迷惑をかけるだけですが、睡眠中の無呼吸(窒息)が繰り返されると、睡眠不足から日中の眠気、集中力・判断力低下、イライラ、重要な会議中でも居眠りをしがちになります。自動車の運転中にウトウトして、電柱に激突したり対向車線に飛び出したりという交通事故もよくあります。1979年のスリーマイル島の原発事故、1986年のスペースシャトル・チャレンジャーの爆発事故、1989年のアラスカ沖のタンカー座礁事故も睡眠障害によるものであったといわれています。

 長年かかっていると慢性的な酸素不足を解消するため、赤血球が著しく増加して多血症となり血液が粘り、心臓に負担をかけるため、高血圧、狭心症、心筋梗塞、さらに脳梗塞などを合併しやすいといわれています。米国のデータでは、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の人はそうでない人に比べて、高血圧を発症する可能性が2倍、狭心症・心筋梗塞は3倍、脳血管障害は4倍といわれています。さらに睡眠1時間あたり20回以上無呼吸が記録された患者さんが、無治療のまま放置した9年後には、10人のうち4人は心臓病、脳血管障害、交通事故で亡くなっていたという衝撃的な報告があります。

 

 

治療法

 閉塞型睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の本格的な治療法は、内科的治療法、歯科的治療法、耳鼻科的外科治療法に分けられますが、まず生活習慣を見直す必要があります。

¨         体重の減量:生活習慣病予防のためにも、大変重要です。

¨         飲酒制限:アルコールは上気道(のど)の筋力を低下させます。

¨         薬の服用制限:睡眠薬や精神安定剤は無呼吸を悪化させます。

¨         禁煙:タバコにより上気道に炎症がおきやすくなります。

¨         睡眠体位の変更:仰向け寝では、重力で舌の根元が下がり上気道を圧迫し、無呼吸を起こしやすくします。なるべく横向きに寝るようにしましょう。

¨         口呼吸の防止:鼻炎がある場合は治療を行い、鼻呼吸をするようにしましょう。

¨         内科的治療法(CPAP療法):医科では治療の第一選択になっており、欧米ではかなり普及している治療法です。鼻にゴムマスクを装着し、コンプレッサーを用いてある一定圧力にした空気(持続陽圧呼吸:CPAP(シーパップ))を鼻から送り込んで、上気道のつまりをふせぐ方法です。治療が完全に行われると、その晩から熟睡でき、体内の酸素不足も改善させるため、高血圧や不整脈などの症状も抑えることが可能で、1998年より重症の患者さんに限り保険適応となっています。しかし、一晩中持続的に陽圧がかかることで不快感を伴うことや、夜間にのどがカラカラに渇いてしまい、長期間の使用に耐えられない人もいます。また装置が以前より小型になったとはいえ持ち運びが困難で、毎晩の装着が面倒ともいえます。

¨         歯科的治療法(スリープスプリント療法):スリープスプリントというマウスピースのような装置で、下あごを数mm前に出すことで舌もその分前に移動するので、仰向けに寝ても舌の根元が下がり上気道を圧迫することを防止します。プラスチック製のため軽く、大きさもポケットに入る程度のため持ち運びも簡単で、歯がしっかりしていれば何年でも使用できます。2004年4月より、保険適応になりました。

¨         耳鼻科的外科治療法:原因が扁桃腺肥大なら扁桃腺摘出術、アデノイドならアデノイド切除術を行います。のどちんこ(口蓋垂:こうがいすい)が長い場合は、それ自体またはその上の軟口蓋(なんこうがい)を切除します。ただし、一時的によくなっても2〜3年で元に戻ってしまったり、口蓋垂を切除すると誤嚥ごえん誤って物を飲み込んでしまうこと)しやすくなる場合もあります。

 

 

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