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文久2年4月11日(1862年5月7日) 
【江】幕府、安藤対馬守(信正)の老中罷免
【京】長州藩久坂玄瑞ら、長井雅楽の弾劾書を提出

■安政の大獄関係者の恩赦と処罰
【江】文久2年4月11日、幕府は老中安藤信正(磐城平藩主)を罷免しました。安藤は溜間詰となりました。

<ヒロ>
このときの首席老中は久世広周(関宿藩主)でした。安藤は久世とともに桜田門外の変で大老井伊直弼が暗殺された後、幕閣をリードしてきました。安藤が罷免された理由は、『徳川慶喜公伝』によれば、和宮降嫁による公武合体路線・開国路線が尊攘派に指弾されていたことだといいます。特に坂下門外の変で水戸浪士らに襲撃されて以降、幕府役人にも罷免を取りざたする者がでていたそうです。しかし、実は、安藤は久世が航海遠略策の公武周旋を長州藩に任せたことが不満で、自ら辞めたとする説もあります(『幕府衰亡論』)。安藤はこの後、8月に不正があったとして二万石を削られ、致仕・永蟄居を命じられました。なお、戊辰戦争時には奥羽越列藩同盟に加わり、新政府軍と戦っています。

安藤に代って幕閣の中心に座ったのは3月に老中に就任したばかりの備中松山藩主板倉勝静でした。板倉は安政の大獄時、寺社奉行だったのですが、寛大な処分を訴えて井伊直弼に忌避され、職を解かれた人物でした。

なお、安藤を罷免した久世も、長井雅楽の航海遠略策が失敗すると病を理由に辞職を願い出、6月に罷免となります。安藤同様、8月に一万石を削封され、致仕・謹慎を命ぜられ、11月にはさらに永蟄居の処分を受けました。久世はそれから約2年半後の元治元年6月に亡くなっています。

参考:『徳川慶喜公伝』・『幕府衰亡論』・『明治維新人物事典』(2003.5.8)
関連:■テーマ別文久2「違勅条約&安政の大獄関係者の大赦と処罰

■長井雅楽の航海遠略策
【京】文久2年4月11日、長州藩尊攘夷急進派久坂玄瑞らは、藩論である「航海遠略策」を周旋中の長井雅楽の弾劾書を在京藩重職に提出しました。藩主宛のこの弾劾書には長井の罪12か条が挙げられ、長井を切腹に処し、朝廷に陳謝し、公武合体の周旋を破棄すべきだと主張されていました。

長井の罪状には、朝廷を侮蔑したこと、公卿を篭絡しようとしたこと、藩主を欺いたこと、老臣を侮ったこと、長州藩内の士気を阻んだこと、安政の大獄時に吉田松陰を幕府に引き渡したこと(「吉田寅次郎赤心誠忠の者に候得は、雅楽枢密に居り、いか様にも取り計らひ振も可有候處、関東に引渡候事」)、前年5月に世子毛利定広の盛意を挫いたこと、牽強付会の書面を藩主の方針だと唱えたこと、安藤・久世老中の助けを借りたこと、藩主・支藩藩主・老臣をさしおいて江戸城柳間に上がったこと、などが含まれていました。(参考『維新史』)

背景:
長井の「航海遠略策」(公武合体・開国説)は文久元年3月来、長州藩の藩論でした。長井は藩命で京都の朝廷と江戸の幕府(老中久世広周・安藤信正)に同策を入説し、好感触を双方から得て、帰国。長井の復命を受け、藩主毛利敬親自らが江戸参府を機に周旋することとなりました。長州藩は同年12月に幕府に建白書を正式に提出し、嘉納されました。翌文久3年1月3日、敬親は、長井を中老に昇格させ、朝廷に再入説させるため、京都に派遣することにしました。長井の上京は、老中安藤の襲撃事件(坂下門外の変)で延期され、3月10日に江戸出発。同月18日に入京し、翌19日に議奏正親町三条実愛に面会し、求めに応じて建白書を提出しました。21日、正親町三条は長井に天皇が周旋の顛末を喜んでいると伝えました。このように長井の周旋は、一見、順調に進んでいるかのようだったのですが・・・。

京都の情勢は前回の文久元年当時とは一転しており、過激な尊攘急進派が勢力を伸ばしていました。しかも、薩摩藩国父島津久光の率兵上洛(こちら)が近づき、これを討幕挙兵と信じる尊攘激派の間では薩摩藩の声望が増しており、在京長州藩は後塵を廃したことへの焦りを感じていました。前々から長井の説を批判していた久坂玄瑞は、諸藩の有志と手を結んで、長井の周旋を妨害しようとしました。久光の上洛に先発して在坂中だった西郷隆盛も、長井には批判的で、暗殺もやむなしという考えでした。4月10日、久光の大坂到着とともに、長井排斥の動きはエスカレートしていきました。そして、19日、久坂らは藩主あての長井の弾劾書を提出したのでした。

関連:■テーマ別「長井雅楽」■開国開城「文1:長州の国政進出:航海遠略策」 「開国開城-文2:長州藩論一転・破約攘夷へ」開国開城-文2:薩摩の国政進出-島津久光の率兵上洛と寺田屋事件

<参考>『維新史』三・『徳川慶喜公伝』2(2003.5.8)

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