53号 2004年5月 バイオフィルム

 

 

自然界のバイオフィルム

 バイオフィルム(Biofilm:生物膜)とは、多糖類やその他有機汚染物質でできた粘性のあるゲルの中に、細菌(バイ菌)・真菌(カビ)などの微生物が入り込んで複合体を形成し、自動力のない表面に付着した状態の総称です。

 通常、ある硬い表面に付着する最初の物質は微量の多糖類や有機物です。一見ツルツルに見えるこの硬い表面も、微妙に凹凸がついていて、ある微生物が付着すると、増殖して群れをなし、ネバネバとした分泌物を排泄することにより、その硬い表面に吸着していきます。すると、その排泄物を利用できる別の微生物がそこに付着して増殖し、さらに群れをなして自分自身の排泄物を産生していき、そのうちフィルム、つまり膜様のものを形成します。このバイオフィルム内では、複数の微生物が離れ離れになることなく、強固な共生体として存在しています。

 バイオフィルムという名前を知らなくても、上記の説明がわからなくとも、みなさんも、日常生活の中でバイオフィルムを見たり感じたりしているはずです。それは、台所の流し口、風呂場の排水口、川の石の表面、水槽や花を数日いけておいた花瓶の内部、下水管の表面などなど。そう、あのヌルヌルして悪臭を発しているものがバイオフィルムなのです。

 

 

バイオフィルム感染症

 単独で生息していた時には、それほど人に悪さをしなかった細菌(バイ菌)・真菌(カビ)などの微生物達が、多数凝集して強固な共生体となると、それぞれの微生物単独では生きていけなかった低栄養の環境でも生息できるようになります。またネバネバとした排泄物により、一見ツルツルに見える硬い表面に水流程度では流し去ることができないほど強く付着でき、バリアとしてのフィルムを形成すると、人が作る免疫細胞ばかりか、抗菌剤や消毒剤までもがほとんど効かなくなります。

 バイオフィルム感染症としては、細菌性心内膜炎、慢性気道感染症、慢性骨髄炎、壊死性筋膜炎、細菌性前立腺炎などがあります。免疫作用、抗菌剤、消毒剤が効きにくいため、慢性、場合によっては難治性の感染症となります。アメリカにおいては、バイオフィルム感染症に対する医療費が、年間1000億円を優に超えているともいわれています。

 

 

歯垢もバイオフィルム

 がある場合、人のお口のなかには300種を超える細菌が数千億も住み着いています。お口のなかの清掃状態が悪いと、それが1兆個近くになってしまいます。

 さまざまな細菌がいるお口のなかでは、まず唾液に含まれる糖タンパクが歯に触れると、歯の表面にペリクルという膜が作られます。するとここにむし歯の原因菌:ミュータンス菌が付着し、増殖するとネバネバしたデキストランという物質を排泄します。デキストランにより、さらに多くの細菌が強固に歯の表面に付着して、歯垢(プラーク)となります。歯垢が熟成されると、表面に膜様のもの:フィルムができます。つまり、歯垢もバイオフィルムなのです。こうなると、うがい程度では流し去ることができなくなり、唾液の解毒作用もほとんど効かなくなるので、ミュータンス菌が活発に働いて酸をつくり、歯の表面:エナメル質を溶かし始め、むし歯になっていくのです。

 歯と歯肉(歯ぐき)のすき間:歯周ポケット内にバイオフィルムが形成されると、これまた唾液の解毒作用が効かなくなり、細菌の出す毒素や酵素などが、歯を支えている土台である歯周組織を刺激し、炎症を引き起こします。これが歯周病です。

 むし歯も歯周病も、原因は歯垢=バイオフィルム。自然界のバイオフィルムは、水流程度では流し去ることができず、ゴシゴシこすったり、強力な薬剤を使用しなければ除去できません。同様に、お口のなかのバイオフィルム=歯垢も、うがいはもちろん、洗口剤(うがい薬)程度では効かず、かといって強力な薬剤を使用するわけにもいかないのですから、機械的に丁寧に除去するしかないのです。毎日毎日のブラッシング(歯みがき)はもちろん、専門家である歯科医師による清掃も定期的に必要となります。

 

 

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