第74号 2006年2月 ミニマルインターベンション 語源
ミニマルインターベンションという言葉の起源は、国際歯科連盟(FDI)の学会誌「International Dental Journal」の50号に掲載された論文によります。20世紀最後の年である2000年のことです。ミニマルインターベンションとは、Minimal Intervention、日本語では最小限の侵襲と訳されています。 今までのむし歯の治療では、むし歯に侵された部分の歯を大きく削り取り、修復物を入れるために、その修復材料(金属やセラミック)にあわせて健康な歯まで削ってしまうという方法が取られてきました。しかし現在では、従来のように大きく歯を削らなくてもよい、歯と接着する修復材料(コンポジットレジン)が開発され、必要以上に歯を削らずにすむようになりました。さらに、食生活の改善やプラークコントロールの徹底、フッ素による歯の強化を正しく行うことで、初期のむし歯なら、進行中のむし歯でも抑制できることがわかりました。経過を観察して歯の再石灰化を促す、歯質保存的な治療を行うことが可能になってきたのです。 修復処置の高い再発率 私が歯学部の学生だった頃、むし歯の治療は、むし歯→削除→修復→治癒と教育されました。私が不真面目な学生だったからか、その修復した歯にむし歯が再発することなど、ほとんど教育された記憶がありません。もちろん、一度装着した修復物が一生もつとは思っていませんでしたが、修復物が装着されるとむし歯治療は終了すると思っていたのです。
この再治療の理由は、二次う蝕、脱落、歯髄炎、破折などで、ほとんどのケースが、これで長くもつだろうと信じて行った処置が予想以上に簡単に壊れ、再治療を繰り返しているのです。 例えば、若い年代で歯と歯の間のむし歯でインレーを装着すると、二次う蝕になり5,8年後にはさらに大きなインレー、もしくは歯全体を覆う冠が装着され、さらにその8,9年後には歯髄(神経)までむし歯が達し、歯髄の処置(神経を取る)を行います。木が枯れ木になると脆くなるように、歯髄を失った歯はもろくなるので、数年後には抜歯となりブリッジを装着します。そのブリッジも、支える歯に負担がかかるため8,0年後には使用できず、場合によってはさらに抜歯となり、部分入れ歯にせざるをえなくなります。 平成11年の歯科疾患実態調査によると、極端なケースの場合、20代後半から部分入れ歯になることもあり、50代後半からは、2人に1人が部分入れ歯あるいは総入れ歯になっているのが実態です。75歳以上では、60%弱が総入れ歯であり、部分入れ歯まで入れると実に90%弱になっています。 ミニマルインターベンションに基づく治療 初期むし歯に対しては、すぐに削ってしまうのでなく、これを管理することによって削らない治療法を選択し、その歯の寿命を延長することが最初の選択肢となります。食生活の改善やプラークコントロールの徹底、フッ素による歯質の強化が大切です。 残念ながら象牙質まで達した進行性のむし歯では、むやみに麻酔をせず、う蝕検知液を使用して感染したむし歯部分のみを削除し、歯と接着する修復材料(コンポジットレジン)を積極的に利用すべきです。 また、むし歯が歯髄(神経)まで達していそうな場合は、3種混合抗菌剤を使用して、極力歯髄を残すように努力すべきだと思います。 このようにして、修復すべきむし歯は修復処置が終了しても、むし歯治療が終了したわけではありません。その後も経過観察し、引き続き食生活やプラークコントロールに関する助言の徹底、フッ素による歯質の強化が必要ですし、不幸にして、再修復やより大きな修復処置が必要になっても、最小限の侵襲に心がけ、その歯の寿命をできるだけ引き延ばすことが重要だと思います。 歯は、一度削除してしまえば二度と再生することはありません。ぜひ、破壊者でない歯医者をかかりつけ医にされることを願っております。 |
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