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文久2年8月27日(1862.9.20)
【江】横井小楠、大目付岡部長常に幕政改革を説く
【彦】長野主膳斬首

■幕政改革(春嶽、登城スト中)
【江】文久2年8月27日、越前藩政事顧問の横井小楠は、かねてより招待されていた大目付岡部長常(駿河守)邸を訪問し、幕政改革を説きました。小楠は持論である「国是七条」(1.将軍上洛と失政の陳謝、2.参勤交代廃止(術職へ)、3.諸大名の妻子の帰国、4.外様譜代に拘らない人材登用、5.言路洞開と「公共」の政治、6.海軍振興と強兵、7.相対交易から官交易へ)に基づき、岡部と意見交換をした模様です。

岡部長常から小楠の説を伝え聞いた後見職一橋慶喜は感銘を受け、その夜のうちに<横井の論には御用部屋一同感服した。参勤などの件は早速、小楠の言うとおり改革したい。ついては、この際、横井を登用して政治改革顧問にしたいがどうか>と直書を春嶽に寄越したほどでした。

<ヒロ>
政事総裁職の松平春嶽は生麦事件の処理について幕府の優柔不断さに失望し(こちら)、この様子では幕政改革(今でいう構造改革)など実行されるわけもないと、24日に登城拒否(出勤拒否)をしていました(こちら)。朝廷からの命令で総裁職についた春嶽の出勤拒否はまずいですよね。しかも、幕府はこれまでの「失政」を朝廷に陳謝し、新しい政治を行うと誓っていますし。幕閣と春嶽の間の仲介役のようになっていた大目付岡部長常は、局面打開のため、春嶽の政治顧問である横井小楠を招待し、その意見をきいたようです。でも、春嶽が総裁職就任からずっと唱えていても暖簾に腕押しだったのが、小楠の演説に感銘を受けてころっと態度を変えてしまう幕閣って・・・^^;。春嶽の登城ストという状況もあったでしょうが、春嶽の立場もないような・・・^^;。

それにしても生麦事件が幕政改革の実行につながっていくなんて、「風が吹けば桶屋がもうかる」みたいですね^^。ちなみに、岡部長常は長崎伝習所目付・長崎奉行・外国奉行を歴任した開明派幕臣の一人です。

参考:『再夢紀事・丁卯日記』、『続再夢紀事』、『横井小楠<増補版>儒学的正義とは何か』(2003.9.30)
関連:■テーマ別文久2年:「幕政改革問題」「横井小楠」■開国開城「勅使大原重徳東下と文久2年の幕政改革」■越前藩日誌文久2

■安政の大獄の追罰
【彦根】文久2年8月27日、大老井伊直弼の腹心であった長野主膳が彦根藩の藩命により斬首されました。

<ヒロ>
長野主膳斬首の背景:
直弼が桜田門外の変で暗殺された後も、藩内で主膳が失脚することはありませんでした。むしろ、直弼の側近としての功績により、文久2年5月には録100石の加増が行われていました。

しかし、同じ5月には勅使大原重徳と大兵を率いた薩摩藩国父島津久光が江戸に向けて出発して幕政改革を迫り、幕威に陰りがさすようになります。

京都では、薩長両藩の国事周旋を契機に尊攘急進派の勢力が伸張し、7月20日には九条家の島田左近が暗殺され、28日には公武合体派岩倉具視らが失脚しました。「安政の大獄の反動」(『徳川慶喜公伝』)が起ったのです。

幕府は、8月7日、朝廷に対して従来の「失政」を陳謝し、その責任を久世・安藤両老中に帰しました(こちら)。久世・安藤は16日に隠居・謹慎を命じられました(こちら)。、同政権が基盤を引き継いだ井伊直弼の「失政」の責任も当然問われることになります。24日に長州藩世子毛利定広が伝宣した勅諚には国事犯(安政の大獄関係者を含む)の赦免と過失ある幕府有司の責罰が含まれていました(こちら)

彦根藩としては、直弼政権を支え、また安政の大獄を指揮した長野主膳を厚遇し続けることに居心地の悪さを感じ出したのではないでしょうか。尊攘激派の間で悪名高い主膳を罰することで藩自体への処分を免れようという気持ちもあったかもしれません。(7月に藩内で政変があったことも主膳への処遇に影響したようです)。

加増からわずか3ヶ月余。主膳は8月24日に揚屋(上士の牢屋)入りを命ぜられ、その3日後の27日に斬罪となったのでした(切腹ではなく)。

主膳は次のような辞世を残しています。
「飛鳥川きのふの淵はけふの瀬と かはるならひを我身にそ見る」

急転した人生を自嘲しているようにも取れ、諦観しているようにも取れ、藩庁の変わり身の早さに抗議しているようにも取れる気がします。悪名高い主膳ですが、彼自身はただ主君につくしたつもりであり、そのことに誇りをもっていたのではと思います。(「悪役」とされる人物には興味がありますので、いつか調べてみたいです)

なお、この年の11月、井伊直弼へ追罰が行われ、10万石が削られました。

参考:『徳川慶喜公伝』2、『安政の大獄』(吉川弘文館)、『安政の大獄』(中公新書)(2003.9.30)
関連■テーマ別文久2「違勅条約&安政の大獄関係者の大赦と処罰」■「開国開城」「戊午の密勅と安政の大獄」 「勅書返納問題と桜田門外の変

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